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だが、美耶の問いに絢乃は黙り込み、答える気配は無い。
「…ごめんね美耶。心配かけて、ごめん。いつか絶対に話すから、もう少しだけ待って…ごめんね」
絢乃はそういうと携帯の電源ボタンを押し、通話を打ち切ろうとする。
「あっ…ちょ…ちょっと待ってよ絢乃!!」
通話を打ち切る直前に、その気配を察したのか、電話の向こうで美耶が慌てた様に喋るが、絢乃は構わず電源ボタンを押した。
通話を打ち切った後、続けて携帯の電源を落とすと、絢乃は暫く手の中の携帯を見つめていたが、やがて携帯を握り締めると瞳を伏せた。
そして深い溜め息を一つ零すと、絢乃は空に輝く太陽を眩しそうに見上げた。
行方不明になっていた間の事は、幼馴染みで親友の美耶にですら話せていない。
美耶なら最後まで聞いてくれる。疑わないで信じてくれる。
そう思うのだが、やはり突拍子も無い話なので話す事に躊躇いがあった。
行方不明になっていた間、絢乃は戦国時代にいたのだった。
俗にいうタイムスリップというやつだったのだろう。
今でも夢だったのではないかと思う事もあるが、夢にしては鮮明すぎた。
戦国の世での出来事は絢乃の心に、身体に、記憶に深く刻まれていた。
そして、戦国の世で誰よりも絢乃の心に残った人。
今も尚、絢乃の心の大半を占める存在。
明智光秀。
絢乃が愛した男性で、絢乃を愛してくれた男性。
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