その壱

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 本来は真剣において行う技法である。刀身を鞘に収め、抜刀の鞘走りによって剣速を加速させて、いかなる場合においても相手より速く切り伏せることが出来る。ただし、一撃必殺ゆえに失敗した時の代償は死そのものとなる、諸刃の剣。またの名を抜刀術とも言う。  この場においてそれを行うとはどういう事か。  さっきまでのような普通の者ではない。優男は瞬時にそれを察した。血に塗れたかのような紅い瞳が自らを捕らえて離さない高揚感。 (ダメだなぁ…手加減できそうにないや…)  心の中で口の端だけ釣り上げて笑った。 「……」 「どこの流派が伺ってもよろしいですか?」  先生としての立場ではなく、一介の剣士として死合をしたがっている。その高ぶった気持ちを抑えるべく口にした。しかし返って来た答えは意外なものだった。
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