その壱

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 先生としての立場ではなく、一介の剣士として死合をしたがっている。その高ぶった気持ちを抑えるべく口にした。しかし返って来た答えは意外なものだった。 「流派名はありません」 「ない?」 「はい。幼少の頃よりその業(ワザ)だけを教えられました」  地位や名声などを得としない流派…。そんなものが果たして実在するものなのか、そして実在したとしたらそれは一体どのような剣なのか。  気を少し紛らわせるつもりが、余計に自らの気を高ぶらせてしまった。  無名の流派が使う抜刀術。剣士としてなんとも興味深い未知の領域ではないか。想像ばかりが一人歩きしそうだ。それでなくてもこの者は強いと直感しているというのに。 「…そうですか。見てみたいですね、その無名の流派の業とやらを…」  さらに油を注ぐ言葉が放たれる。 「鬼、ならば…」
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