その壱

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 紅い眼を鈍く光らせて、自分を、新撰組の沖田を挑発してくる。  もう、決定的だった。 「知りませんよ。手加減できなくなっても…」 「おいおい、総司…」 「大丈夫ですよ、永倉さん。死ぬワケじゃないですから、お互いに……」  今日一番心底楽しそうに、それでいて見る者に寒気を覚えさせるような笑みを浮かべた。  場内がざわつく。周りにいた誰もが「なぜ」という思いを隠せないでいた。新撰組の沖田総司が、さらに小柄な一介の無名剣士に、稽古とはいえ今日初めて構えを取ったのだから。  左肩を引き、右足を出して半身に開く。そして剣先がやや右による構え。 天然理心流 平星眼 「───」  構えた途端、一際大きく、重圧が圧し掛かるような圧迫感が辺りを包んだ。最早、場内で彼ら二人以外に言葉を発することが出来るものは皆無だった。  剣気のぶつかり合いと、間合いの測りあい。いずれも小さくなった時点で、誤った時点で勝負は決する。底が知れない以上手加減など出来そうにない。 「いざ、尋常に」  こともあろうに、沖田 総司に構えを取らせた剣士、汐見 綺良は眉一つ動かすことなく満足げに言った。
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