その壱

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 しかしながらにして、そこは実践同様の緊張感に包まれていた。  四十名程であろうか、そのいずれもが意志の強さと屈強な面構えを見せている。だが、その男達が息を呑んで見守るほどの光景。ただの同情で行われている試合は何も知らないものには違和感を持たせる奇妙なものであった。  同じ袴を着た二人、筋肉で身体を覆うくらいの体格のいい男と、女のように長い髪を結った優男が木刀で打ち合いをしていた。よく周囲を見れば、男達の何人かは、必ずどこかしら負傷して腫れ上がっていたり、濡れた布を肩や腕に当てていたりしていた。 恐らく共通して浮かび上がっている感情は『畏怖』。  木刀の激しくぶつかり合う音が響き、音に合わせて、荒々しい不規則な音の羅列が続いている。豪なる風切り音を伴う一振り一振りが、いつも独特の軽い音ではじかれてしまう。直撃すれば、骨の一本や二本は軽くイってしまってもおかしくないそれを全て何の苦もなく。力量が違いすぎた。  不規則な音は前者のモノであって、後者の方からは一切足音が聞こえない。
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