その壱

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 ちなみに彼の前に挑んだ男は胴をもらってすぐ、医者に診てもらいに行った。  今現在道場にいるのは既に手合わせを済ませた軽傷者か、これからの恐怖に怯える無傷者のどちらかであった。 「ありがとうございました、先生」 「先生はやめてください。恥ずかしいですから」  優男は子供のような邪気のない笑みを浮かべた。  先ほどまで戦っていた男は、木刀を拾うと一礼をして、それまで固唾をのんで見守っていた者たちの中に混じって正座をする。  それに合わせるかのように道場の戸が開かれて、妙に勢いのある明るい声で一人の小柄な男が入ってきた。立派な大人であるはずだが、素朴そうな幼さを秘めているようにも見える。 「おっはよ~う」 「おはようございます!!」  道場内の全員がその男に向かって挨拶をした。優男も含めてだが、そこまで敬われるような人物には見えない。 「ってあれ? 今日は局長も副長もいないの?」
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