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「次、どなたがやりますか?」
この道場でいつも稽古をしている連中は真っ先に眼を合わせまいと他の誰もが視線を逸らし、つい最近採用された者は、実力試しと息巻いてさっきの男と同様、もしくはそれ以上になり、他数名は完全に優男の実力を目の当たりにして呑まれていた。
──たった一人を除いて。
「私が」
声の主が僅かな衣擦れの音をさせて立ち上がる。
一身に注目を集め、場内にざわめきが漏れた。最後に来て準備運動をしていた男に至っては、横目でその姿を確認すると軽く口笛が鳴った。
それもそのはず。挑戦を名乗り出たのは、負けず劣らずの細い体格の持ち主だった。
女のように背は低いし、声は高い。前髪は両目が隠れるほど長く、後ろは一つに結っている。
歌舞伎の女形を演じるために生まれたかのような男だった。
「では、前へ」
「はい」
この場に立ち会っている中で一番、ひ弱そうな体格の持ち主が、一番の剣の使い手に手合せを願い出る。
立ち会う優男と、願い出た本人を除いて、誰もが一つのことを思った。
(コイツも医者送り確実だ…)
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