夏休み

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「良ちゃん?」 「え?」 高峰くんは立ち止まり、名前を呼ばれたほうを振り返る。 僕も同じように顔を向けた。 「ゆりえ?」 ――呼び捨て…。 …ゆりえと彼が呼んだ人は、浴衣の似合う可愛い人だった。 誰だろう?途端に胸がざわつく。 「やっぱり良ちゃんだー!久しぶりだね」 「ああ。そうだな」 「またかっこよくなったんじゃない?」 「何言ってんだよ」 “良ちゃん”“ゆりえ” 親しい関係だということは分かる。 何となくただの仲が良い友達ってわけじゃなさそう。 高峰くんが女の子を名前で呼ぶの聞いたことないし。 たぶん二人は…。 「私、リサ達と来てるの。良ちゃんは?」 「あー俺は」 話の矛先が自分に向きかけ、ドキッとして僕は咄嗟に言葉をつないだ。 「あの、僕あっちにいるから!」 「え!?カナ!」 人ごみをかき分けて、その場を去った。 高峰くんには申し訳ないけど、あそこにいたくなかった。 二人が仲良く話す姿をあれ以上見たくなかった。 「……」 笑いながら通り過ぎるカップルを横目に羨ましく思った。 堂々と腕を組めて手を繋げて、みんながカップルだと疑わなくて。 僕たちが並んで歩いていたって、友達にしか映らない。 当たり前のことなのに、何だか心にぽっかり穴が開いたような、すきま風が吹き抜ける感覚がした。  
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