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…ねぇ、大倉。僕のこと嫌いになったん?
…ねぇ、大倉。僕たちもう終わりなのかな?
時計の秒針の音しか聞こえない、不気味なほどに静かな重い空間。俺と大倉の二人きり。
「……やす、ごめん。あのさ、」
「…っ、もうそれ以上言わんで!」
その後に続く言葉、きっと僕の頭の中のものと一緒なんやと思う。
(どうせ、‘別れよう’って言うんやろ?)
大好きな大倉本人の口から聞くのは、まだ僕には耐え切れへん。分かってる、分かってるから、それ以上言わないで。
「大倉、今までありがとう。」
「…やす……」
さよならはまだ言えないんだ、でも大倉の前では精一杯物分りのいい僕を演じさせて。少しでも僕と付き合ってよかったと思ってくれてたらええな…。
――…ガチャ
そっとドアを閉めた音が、僕の心の中に響きわたった。冷たい音が妙に心を落ち着かせる、なんて。ドアを閉めたと同時に溢れ出した涙は見ない振り。
やっぱり僕の目は間違ってへんかったんやね。
大好きな君の優しい視線。最近、僕やなくてマルに向いてたやろ?分かってたんやで?
(……ちゃんと僕の分も愛してあげてや。)
マルと大倉の恋が上手くいきますように、そう小さく願って。
でも今日だけは、大倉を想って泣いてもええよね…?明日からはちゃんと前を向いて歩くから…。
ちくちくと痛む恋心と共に、そっと大倉の家にさようなら。
僕は大倉のことが大好きやったよ。
end.
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