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所変わって極東支部から5km離れた上空。
「聞いてないですよ!!
なぜザイゴートがこの高さに存在しているんですか!!」
一台の小型航空機がザイゴートに襲われていた。
「ええい!! 泣き言を言うな!!
奴らは常に進化し続けているんだぞ!!
ここ一年で何回アラガミの確認最高高度が更新されたと思っている!?」
「私が出るアル!!」
航空機の乗組員は三人、パイロットと、スーツを着た男と、チャイナ服の少女――李 ファンイルである。
「無茶だ!!」
「でも、このままだとやられるだけアル!!」
「だが、しかし……っておい!!」
男の了承を取る前に、ファンイルはチャイナ服のスリットに沿って携帯している腕甲型神機を装着した。
腕甲型神機。
それは使用者の指先から肘にかけてを覆う鎧のような神機である。
小指の外側から腕の外郭に沿って取り付けられた刃は、硬質でありながらもファンイルの意思によって自由に湾曲する。
「撃つアルよ!! 伏せるネ!!」
ファンイルはザイゴートに向かって手のひらを向ける。
「道散(タオサン)!!」
ザイゴートへと放たれたバレットは強誘導の通常弾だった。
アラガミの細胞を捕喰しようと、打ち出されたオラクル細胞が形を変えながらザイゴートに迫る。
足場の不安定な場所でロクな照準もつけられないため、その選択は極めて正しいと言えた。
しかし、あろうことかザイゴートは回避行動を取った。
稀に存在する狡猾な個体である。
しかしこの場合、ザイゴートはこの弾を避けようとするべきではなかった。
誘導を振り切ったと思われたその瞬間、弾が弾けて拡散したのだ。
「道散」は、誘導弾のモジュールに拡散弾を行うことで驚異的な命中率を誇る弾だ。
アラガミ側は拡散前に捨て身でバレットを受けない限り拡散弾の脅威から逃れられない。
拡散した弾がザイゴートの体組織を捕喰破壊する。
「キュロオオッ!!」
怒りで活性化したザイゴートが、捨て身で航空機を破壊しに掛かった。
アラガミとの戦闘を想定していない薄い装甲で、それを受け止めることは不可能だった。
そして航空機を貫通した後のザイゴートは、急に高度を落とした。
突進の際にファンイルを巻き込んで、そのままファンイルが落ちないためにザイゴートにしがみついたからだ。
「くっ……パイロット!! 機体をファンイルに向かって飛ばせ!!」
「できません!! これ以上高度を落とせば他のアラガミに襲われます!!」
「クソっ!!」
男の仕事は送迎から救助要請に変わった。
行き先だけが変わらない。
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