柑橘系女子

11/11

2812人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
「あの、どういう……?」 「最初は、ただ、さっきのことが聴きたくて、ずっと佐藤君の方を見て聴く機会を探してたの。けど……だんだん、佐藤君を見てるのが楽しくなって、ときどき目が合ったりするのが……嬉しくなって」  ……え? 「それに、こんな変わった性格をしてる私を、佐藤君は羨ましいって言ってくれた。それが……すごく嬉しかったの」  桂木さんは立ち上がって、扉の方へ歩み出す。 「そこで気付いた……私、佐藤君が好きなんだって。人を好きになったことないから、気付くのに時間掛かっちゃった」  ドキンと心臓が鳴る。  と同時に、ガチャッと鍵が閉まる音が鳴った。 「私、佐藤君のこと何も知らないから、すごく興味ある。すぐに知りたい、佐藤君のこと」  振り返り、桂木さんは俺と目を合わせる。  制服のボタンを外しながら。  図鑑で見たことがある。  みかん【蜜柑】  ミカン科ミカン属。柑橘類。  日本全国で愛されるその果物は、育てるのがとても難しいという。  日に当て過ぎればその綺麗な山吹色は褪せ、水を与え過ぎれば味が悪くなるらしい。 「佐藤君の全部、私に……教えて?」  好きな女の子の部屋で、二人きり。  こんなことを言われてドキドキしない男がいるのなら、是非会ってみたい。 「え、え……」 「そのかわりに、私の全部……佐藤君に、教えてあげる」  日に当て過ぎたみかんは色が褪せ、味が悪くなる。  そんなことを考えてる今も、少しずつ……桂木さんの顔が近付いてきていた。  穂のかに香るみかんの匂い。  その匂いが桂木さんの口からしているなんてこと、すぐにわかった。  ───柑橘系女子  第一幕『ストーカー被害者』
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2812人が本棚に入れています
本棚に追加