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「あの、どういう……?」
「最初は、ただ、さっきのことが聴きたくて、ずっと佐藤君の方を見て聴く機会を探してたの。けど……だんだん、佐藤君を見てるのが楽しくなって、ときどき目が合ったりするのが……嬉しくなって」
……え?
「それに、こんな変わった性格をしてる私を、佐藤君は羨ましいって言ってくれた。それが……すごく嬉しかったの」
桂木さんは立ち上がって、扉の方へ歩み出す。
「そこで気付いた……私、佐藤君が好きなんだって。人を好きになったことないから、気付くのに時間掛かっちゃった」
ドキンと心臓が鳴る。
と同時に、ガチャッと鍵が閉まる音が鳴った。
「私、佐藤君のこと何も知らないから、すごく興味ある。すぐに知りたい、佐藤君のこと」
振り返り、桂木さんは俺と目を合わせる。
制服のボタンを外しながら。
図鑑で見たことがある。
みかん【蜜柑】
ミカン科ミカン属。柑橘類。
日本全国で愛されるその果物は、育てるのがとても難しいという。
日に当て過ぎればその綺麗な山吹色は褪せ、水を与え過ぎれば味が悪くなるらしい。
「佐藤君の全部、私に……教えて?」
好きな女の子の部屋で、二人きり。
こんなことを言われてドキドキしない男がいるのなら、是非会ってみたい。
「え、え……」
「そのかわりに、私の全部……佐藤君に、教えてあげる」
日に当て過ぎたみかんは色が褪せ、味が悪くなる。
そんなことを考えてる今も、少しずつ……桂木さんの顔が近付いてきていた。
穂のかに香るみかんの匂い。
その匂いが桂木さんの口からしているなんてこと、すぐにわかった。
───柑橘系女子
第一幕『ストーカー被害者』
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