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今の言葉がすごく効いたのか、隣にいる桂木さんはすぐに俯いて、手をギュッと握った。
そんな桂木さんに追い打ちをかけるよう、まだお母さんは言葉を続ける。
「スポンジがまだちゃんと焼けてない。クリームは混ぜすぎたわね。あと全然味がしない。みかんの良さが全部消えちゃってる」
「……ごめんなさい」
……桂木さん、半泣きだよ。
「ちょっと、お母さん言い過ぎ───」
「これ、1人で作ったの?」
お母さんの質問に、桂木さんは少し渋りながら答えた。
「はい。クックパッドとか見ながら、自分で勉強して……。味見とかは、他の人に頼みたいけど……お母さんと、お父さんは、仕事で家にいなくて……。1人で、作りました」
シュンとなりながら、俯いて話す桂木さん。
「そうね。なら失敗しても仕方ないわ」
そんな桂木さんと打って変わって、急に声が明るくなったお母さん。
「梓ちゃんは作り方を知らないし、教わってないもの。それで良くここまで作れたわ。すごいわね」
「……でも、美味しくないし……」
「よし。じゃあ今から私とケーキ作ろっか」
「「え?」」
あれ、どこでそうなったの今?
「じゃあ買い物行かなくちゃね。財布は……と、鍵。よし、じゃあ行こっか、梓ちゃん」
「え、あ───」
桂木さんを引っ張って、お母さんはリビングを出て行った。
……俺はどうすればいいの?
ま、とりあえず。いいとも増刊号見ながら代引き商品待ってよ。
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