2812人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
「ふふ。口にクリーム付いてるよ」
「え、あ、ごめん」
少し慌てながら佐藤君は口に付いたクリームを指で取る。
それを私は見て、可笑しくて、笑ってしまう。
この空間がとても幸せだった。
好きな人に、自分の作ったケーキを食べてもらって、美味しいって言ってもらえて、こうやって何気なく会話をしている空間が。私はとても幸せだった。
そのあと、佐藤君がケーキを食べ終えて、少し会話をして、会話が終わりそうなところでおばさまがタイミング良く台所から出てきた。
きっと私達の会話が終わるのを待ってくれてたんだと思う。
だって、私と目が合ったときにすごく優しい笑みを浮かべてくれたから。
おばさまにはホントに感謝しなくちゃ。
佐藤君にも。
「ありがとうございました。長い間お邪魔してすみません」
「邪魔だなんて、晩ごはんも食べてけば良いのに」
「いえ。今日は父が帰ってくる日ですので、夕食作ってくれると思います」
「あ、そうなの? 家まで送ってこうか?」
「いえ、大丈夫です。今日は本当にありがとうございました」
「いつでもおいでね。そのときにまた一緒にご飯でも作りましょ」
「はい。佐藤君も、バイバイ」
「バイバイ。ケーキ美味しかったよ、ありがと」
「……うん。ありがと」
おばさまにお礼をして、佐藤君に手を降りながら玄関を出た。
今日はとても長く感じた。
けど、あっという間だったな。
来年の誕生日ケーキも、私が作りたいな……。
なんてことを思いながらすっかり紅くなった空を見上げると、飛行機が一つ、まっすぐな紅い線を作りながら飛んで行った。
最初のコメントを投稿しよう!