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「あ、うん……」
そんなに畏まられると……こっちも聴く体制にならないと。
よいしょっと。
「私ね、わからないことがあると、それが何なのかわかるまで調べないと気が済まない性格なの。例えばこのみかん。どうして山吹色なの? て思うと、すぐに調べたくなる。その意味がわかるまで」
なるほど。桂木さんが賢い理由がわかった気がする。
「空も、どこまで空なのか、どこから宇宙なのかって考えると、ずっと見上げてしまうの」
ただの不思議ちゃんかと思ったけど、そうじゃないみたいだ。ちゃんと意味があって行動してる。
「……見て」
立ち上がったと思えば、渡されたのは机の上に置かれていたレポート用紙。
『みかんはどうしておいしいのか』
という題名のレポートで、読んでいくとひたすらみかんについて書かれていた。
……やっぱり、不思議ちゃんだ。
「……これ、何?」
「みかんのレポート」
「どうして書いたの?」
「みかんが好きだから」
ああ、そう。
「変……かな?」
「いや、何かに夢中になれることはとても素敵なことだよ」
俺にはこんな夢中になれること無いし。
「少し羨ましい」
「え?」
「俺にはこんなに夢中なれるもの無いからさ、桂木さんが羨ましい」
「……ありがと」
そう言うと、桂木さんは嬉しそうに、少し恥ずかしそうに笑った。
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