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坂を一気に駆け上がって、泥や水たまりのグラウンドを走る。
下駄箱の前で、桂木さんが雨宿りしてるのが見えた。
走って近付いてるのに気付いたのか、桂木さんが少し驚いた顔をしてこっちを見てる。
「佐藤君……?」
「桂木さん、ハァ、ハァ……」
桂木さんの前まで行って、膝に手をついて呼吸を整える。
「一緒に、帰ろ」
地面に顔を向けてると、髪から雫が滴った。
「え?」
「だから、俺の傘で……一緒に、帰ろ」
膝から手を離して、桂木さんの目を見る。
「……でも、私と帰ると、佐藤君と相傘になっちゃうし」
知ってる。
「傘狭くなるし、きっと佐藤君……周りの目が気になるだろうし」
そういうことじゃなくて。
「私はここで雨が上がるの待ってるから、別に大丈夫だよ。それに……」
ああ、もう……!
「佐藤君を、困らせちゃう───」
「俺が桂木さんと帰りたいんだ」
話してるのを区切って、力強く言葉を発する。
「だから……困るとか、そんなこと言わないで」
今の言葉は自分でもわかるくらい、弱かった。
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