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すると。
桂木さんはそっと微笑んで、ポケットからオレンジ色のハンカチを取り出す。
「こんなに濡れちゃ……風邪引いちゃうよ」
そのハンカチで、俺の頬を優しく拭いてくれた。
けど、そのハンカチも少しだけ湿っていた。
桂木さんの瞳も、少しだけ……潤んでいた。
ザザザ……。
スタ、スタ、スタ。
雨音。足音。
それはさっきまで聞こえてた音。
「昨日ね、久しぶりにお母さんと夕食を食べたの」
今は、同じ傘に入ってる桂木さんが話しかけてくれる。
「そこで佐藤君の話ししたんだよ」
「俺の?」
以前、一緒に下校するために桂木さんとした約束。
『俺を困らせない』こと。
「うん。お母さん、佐藤君に会いたがってた」
その場しのぎで使った言葉だから、俺はすっかり忘れてたけど。今思えば桂木さん、ずっと俺が困るからとかそんな理由つけてた気がする。
もう少し責任持たなきゃ。自分の言葉に。
「そっか」
「またいつか、次はお母さんがいる日に来てくれる? 私の家」
「うん。いつか、また行こうかな」
その場しのぎじゃない。ちゃんと行こうと思ってる。
自分の気持ちにもちゃんと気付いた。いや、わかってたけど、それに気付かないフリをしてたんだ。
桂木梓が好き。
という気持ちに。
───柑橘系女子
第二幕『恋人はストーカー』
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