柑橘系勉強

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   坂下達が貸してくれたノートは、心の中で謝りながら指定バックへ直して、使わず終い。  代わりに桂木さんが作ってくれた対策ノートを開いて、勉強を始めた。 「わからなかったら聴いてね」  隣の席には桂木さん。 「わかった……て、桂木さんは勉強しなくていいの?」  見たところ、勉強道具は何も出しておらず、ただ俺の方に顔を向けて座っている。 「うん。佐藤君にその対策ノート作ってたら、覚えちゃった」 「……ああ、そう」  うん。頭の出来が違う。 「ここはどうしてX'xになるの?」 「これはね、物体が移動してる速度がsだから……」  桂木さんに勉強を教えてもらいながら、ずっと頭の中で意識してること。  名前で呼ぶ。桂木さんじゃなくて、梓って。  呼ぶタイミングは何度もあった。  例えば。  対策ノートの名前の欄に『あずぴょん & りょうたん』って書いてあったり。  ノートの問題文の最後にみかんのイラストが描かれてあったり。  文章問題の例題が『あずぴょんとりょうたんが遊園地にデートに行きました』とか『あずぴょんとりょうたんがドライブに行きました』とか無駄なストーリー設定で強引に物理や数学の問いに繋げてあったり。  タイミングというか、ツッコミどころがたくさんあった。 「で。この場合佐藤君……じゃない、りょうたんの運転で進んでる車の速さがs。だから一緒に乗ってるあずぴょんもsになるの。わかる?」 「ごめん。りょうたんやらあずぴょんやらで全く話が入ってこない」  あと佐藤君とりょうたんを間違えるな。  とか言いつつも、桂木さんの作った対策ノートはすごくわかりやすかった。
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