迷宮の言葉たち

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五月 巨大な魚に飲み込まれ 乾いた砂漠にやってくる そこでは空が 尾鰭の形に大きくちぎられていて そののち風に飛ばされていく 柔らかな布の感触に水色の鱗をふるわせ 東へと泳ぎ出すと 五月の午後は魚の胎内にふっくらと袋のように満たされて 地面はそれを見据えている おまえは 潜ませた思念を振り払って泳ぎ出せ! 時に沿って新しい道を分けろ! 進む道があるのではない 歩まなければ五月はあっという間に去ってしまう その前に お前の裏側をすべてさらけ出して 呼び止めるんだ 叫べ 「ほんとうの俺はここにいるのだ」と さもなくば 時を蹂躙する獣に生まれ変われ 五月はそんな 際どい縁に立つ季節なのだ .
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