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ジン
カウンターでは
ジンが配られている
客は、ロシアンルーレットのように
アルコールに撃たれ、深い眠りについていく
マスターのかすれた声が
バーに漏れ込む波の音の合間から低く響いていた
……ここでは言葉が値切られるのだ
ぼくはジンを飲み干すと
海岸沿いの国道へと爪先を向けた
魚の頭が、月の変わりに青く光っているように見える
背景にはいつも波の音が聞こえていた
あれは、数知れない言葉を奪っていった波頭だ
ぼくは
無言のままこの場所へ
値切られるために生まれてきたにちがいない
ぼく自身という存在にかかわるすべての言葉を売り払い
心臓の鼓動と肺臓の収縮音を売り払い
言葉をもたない詩人となるために
紙の上に描かれた
豊穣なる屍の干からびたくちびるに
ジンを!
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