怪衰欲

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が、シレンは何事もなかったように準備を再開した。 「だんなぁぁぁ!」 夏の砂浜にスケベ男の悲鳴が響いた。 何人かは着替えを終え、もう海に入っている者もいる。 ちなみに一人、砂浜にある木陰で倒れている者がいるが、座頭ケチなので気にしない。 「お竜さん、まだ海に入らないの?」 後ろからコッパが声をかけてきた。 「ああ。まだ気分じゃなくてね……」 言いながら振り返った私は見た。 水着を履き、胴に浮き輪をはめ、麦わら帽子をかぶっているシレンを。 「か……かわいい」 思わず呟いていた。 「いやーそれほどでもないよー」 シレンの肩に乗っているコッパが頭を掻く。 あんたじゃないよと言いたいが言えない。 「はっはっは。相変わらずだなシレン」 砂浜に敷かれた日傘つきのござでくつろいでいたセンセーがこちらに近づいてきた。 「アニキ、珍しい格好だね」 ペケジもこちらに来る。 「あらシレン、かわいい」 アスカも駆けつける。 「ところで、なんで浮き輪? 泳げないの?」 気になるので聞いてみた。 「あ、俺も知りたいよ」 ペケジも続く。 「そういえば私、昔そんな話を聞いたような……」 アスカは何か思い出したのか上を向く。 「ああ。確か……」 センセーが答えた。昔のことなのか、顎に手を当てる。 「こいつはなぁ、昔俺と船で海に出たことがあるんだ。そこで嵐に襲われてなぁ。凄まじい嵐だったぜ。さすがの俺もおしまいだと思ったさ。だが船員は全員……ふっ小型の船で逃げたんだ。必死の思いだったぜ。そのあと海の浅瀬で遊んでたらいつのまにかシレンが海の深いところで溺れたんだ。それ以来海が怖くなったらしいんだ」
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