怪衰欲

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シレンは顔についた海水を拭うと、イカキングに斬りかかった。 一閃。イカキングの足が吹き飛んだ。 返す刀でもう一本、さらにもう一本切り落とす。 「よし! このまま決めんぞ!」 センセーが合図すると。シレンはイカキングの額にカタナを突き刺した。 センセーが二本のカタナを引き抜いて着水すると、見にも止まらぬ速さでイカキングの背を切り裂いた。 それがとどめとなり、先程まで狂ったように暴れていたイカキングは、少しずつ動かなくなった。 すでに夕日が辺りを赤く染めていた。 巨大イカキングは、料理人の経験があるナオキによってさばかれ、大半は海の家に送られた。 やはりナオキの腕はよかったがそれ以上にやたらとにやにやしているセンセーが気になった。 みんなが浜辺で海の幸を満喫する中、センセーだけは浜辺の隅で一人にやついていた。 いやほんと気持ち悪いくらいに。 センセーのあんな表情を見たのは、昼休み、いかがわしい小説を読んでいるセンセーを見たとき以来だ。 なんてことを考えていると、シレンがセンセーに声かけていた。 いや、正確にはシレンの肩に乗っているコッパだが。 「センセー、手に何を持ってるの?」 周りがざわついているが、そこまで距離はないため、はっきりと聞こえる。 「ああ、これか?」 センセーの両手には黒い液体が入ったビンが握られている。 心なしか声も上機嫌だ。 「これな、さっき仕留めたイカキングの墨だ。ナオキに頼んで取っといてもらったんだ」 「なんでそんなものを?」 コッパが首を傾げる。 「最近、呑み友達の間でイカキングの墨を真水で薄めると、酒に変化するという情報があってな。絶品らしい」 余程機嫌が良いのかセンセーの声が次第に大きくなっていく。 「俺も呑みたいんだがイカキングは買うと高いわ、一体から採れる墨も多くない! 精々一杯ぐらいだ。だが、あれほどのでかさならかなり多くの量が採れる! これでしばらくただ酒が呑めるってもんよ!」
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