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雨上がりの空は、いつも眩しい。
まだ頭の上に掲げていた黒い傘を、ゆっくりと下ろす。途端、水滴が何滴か、傘から落ちた。
僕は、俯いていた顔を上げた。
雲が、青空から逃げるかのように、風に吹かれて何処かに消えていく。
「あ、虹だ」
青空が僕の視界の中で澄み切った時。空に虹が架かった。
「虹が出来るところ、始めてみた」
その虹は、僕の視界を切るように架かっていた。珍しく途切れずに、半円型に、すっと。
思わず半開きになっていた口を閉じた。
僕はその虹に向かい歩きだした。別に虹に触れたくてとかじゃない。帰る向きがそっちだったから。
僕は徐に携帯電話をポケットから取り出した。
「――あ、もしもし。凪です」
「ん、表示されるからわかってる。んで、どうした?」
携帯電話を挟んだ向こう側で、面倒臭さそうに応答する声が聞こえる。
「ねぇ文隆。今日、泊まりにこない?」
「どうした、凪から誘うなんて珍しいな」
「いや、なんかね」
電話の向こうの彼にはわからないだろうけど、僕は少しだけ微笑んだ。
「勿論冬美も連れていって良いよな?」
「あぁ、大丈夫」
彼は彼女を連れて来ると言う。僕の大切な親友の一人だ。そして、今日僕がしたいことに必要なメンバーの一人。
「わかった。んじゃ今から晩飯でも買ってすぐそっち向かうよ」
「ありがとう。助かる」
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