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パシン!ガン!バシィ!
どこからともなく響く何かを打ち付けるような音は、うめき声とともに室内に響き渡っている。
バシッ!
「うっ!」
こんなことがもう2日も続いていた。
着物は破れ、寒い牢に閉じ込められ、風呂にも入れず、食事も、口をきくことも、眠ることすら許されず、ただ殴られるばかりだった。
(痛い…寒い…なんで、こんな…誰か…母上…)
雛袖はふと意識が朦朧とする中幼い時に感じた母のことを思い出した。
(母上…)
「雛袖、雛袖はいい子ね、父上も喜んでるわ、雛袖は頭がいい子だからって」
「雛袖、父上も母上も大好きです!だから、雛袖は父上と母上が喜んで下さるなら頑張ります!」
そう言うと母上はいつもの優しい暖かい手で頭を撫でてくれた。
「母上…」
呟くと同時に雛袖は最後の力を振り絞って縄を剥いだ。
見張りは丁度夕飯時で手薄になっていた。
そこへガタンと音がしたので思わずみじろいだ。
びっくりしていると、そこには桃戸と氷雨がいた。
「あなたたち…何故こんなところに…」
桃戸は間髪入れずに小言で言った。
「お嬢様、お逃げください。誰にも分からない、どこか遠くへ!」
そう言うと桃戸は鉄格子の扉をどこからともなく懐から取り出し鍵を開けて雛袖を牢屋の外に連れ出すと、氷雨を担ぎ、雛袖の手をとって走りだした。
はあ、はあ…
「桃、戸?」
「お嬢様、ここを真っ直ぐ、走って、振り返らないで、逃げて!」
桃戸がいい終ると後ろから追ってがもうそこまできていた。
「いたぞ!捕まえろ!」
「お嬢様!逃げて!」
雛袖はコクンと頷き一心不乱に走りだした。
いくあてもなく、ここが何処かすらわからずただ走った。
気が付くと、もう追っ手はいなかった。
安心して雛袖はその場に倒れた。
「あれ?一くん。誰か頓所の前で誰か倒れる」
誰かの声が聞こえた気がした。
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