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「まあ…地方の大学だけれどね。」
何とか浪人生活を免れて、地方の大学に合格した私。
親を含めた周囲のみんなからは、奇跡だと崇められ続けた。
昔から、運は強い方だと言われていたけれど、少しは私の実力を褒め称えて欲しいところだ。
「そうだ……新居の進路は?」
確か、新居って……頭良かったよね。
授業中に当てられた問題の答え、後ろの席からよく教えてくれたし。
「俺は…芸大。」
「へえ、凄いじゃん。」
私は尊敬の眼差しで彼を見た。
芸大ってだけで凄いと思うのは、夢があるって感じがするから。
とりあえず自分の入れそうな大学を選んで受験した私とは違って、目の前のこの人は、自分の将来をきちんと見据えている。
「私なんて、先のことは全然考えていないよ。」
「……そんなもんなんじゃない?」
やけに落ちついた新居の声が、私の耳に届く。
「だって例えば30になった時の自分なんて、想像つく?」
「……全く。」
子供の頃、高校生の世界はもっと「大人」なんだと思っていた。
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