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「デザイナーか! カッコイイね。有名になったら将来安泰じゃん。」
「有名になって成功するか、失敗して堕落するかの紙一重だな。」
新居は自分のことにも関わらず冷静にそう言うけれども、その横顔を見て私は思った。
「あんたは成功するよ。絶対に!」
彼がこんなにも前を向いて、自分の将来を見据えて生きていけるのは、きっと心に決めた将来の夢があるから。
「じゃあさ、30になったら会いにきてよ。あんたの成功を一緒にお祝いしてあげる。それで……」
私はその言葉の続きを、新居の耳元で小さく呟いた。
何気なく口にした、特に深い意味もない言葉。
それに対して、新居は一瞬顔色を変えたようにも見えた。
けれども……。
「まあ、そうならないように祈っているよ。」
周りの雑音に掻き消されそうなくらいに小さな声で、彼はそう言い返してきた。
2000年2月。
春先の暖かい陽射しを浴びながら、私たちは無事に卒業式を迎えた。
冗談半分の、くだらない約束を交わして。
あれから約12年後、2011年10月。
気が付けば私は30歳を目前に控えていた。
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