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「おはよう、信二」教室に入るなり、和樹が挨拶をしてきた。
「おう、おはよう」
自分の机に鞄を置く。和樹は、黙って僕の後ろをついてきた。
「何か用か?」
「いや、何にもないんだけど」和樹は小声で言った。「なんかさ、居心地が悪くて」
僕は、教室を見回す。「居心地が悪い? なんでだよ」
和樹と仲がいい池田もいるし、顔ぶれも、中学三年の頃とほぼ同じだ。和樹にとっては、とても楽しい組み合わせではないだろうか。
「いや、なんかな、高校生になった途端、皆変に変わっちまってさ。受験から解放された反動か、大人に近づいたからなのか知らないけど」
「ふうん」僕は、あまり人に話しかけることがないので、そういった変化には気がつかなかった。
「お前は、何にも変わらないだろうなって思ったんだ」
「予想通りか?」僕は、つい訊いてしまった。
「そうだな」和樹は安堵の色を混ぜて言った。「よかったよ。俺の居場所が、完全になくなるところだった」
「居場所、ね」全然よくない、という言葉の代わりに出たのは、和樹には理解できないだろうものだった。
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