きっかけ

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バス停につくと、 「孝とか直紀ってやつに会わせて」 とお兄ちゃん。 あ、忘れてた。 「分かった。」とだけ行って門をくぐる。 するとほとんどの女子生徒の視線が、大和兄ちゃんに釘付け。 ああ、そういえば昨日もそうだったなあ。 のんきにそんなことを考えていたら、目の前に女子3人が立ちはだかっていた。 きゃー、きたよ。 多分こう聞かれる。この女、誰?と。 「「「この女、誰ですの?大和さま!!」」」 …グレードアップしてる!怖いっ!(泣) そう、私は入学式の翌日は絶対こんな目にあう。 大和兄ちゃんは淡々と、 「俺の妹。」 と返して質問を許さず私をかばうように、その場を去った。 あとに残された女子生徒たちは、顔が真っ青。 大和兄ちゃんが怒ってるのを悟ったんだろう。 お兄ちゃんは、私がこういう目にあうのが嫌みたいだから。 あーあ。 私は女友達を持つ希望を捨て去った。 「山本大和の妹」には誰も近寄ろうとしない。 理由は山本大和とお近づきになるのは、女子の中では最大の裏切りだから。 妹の私と友達になるということなど自殺行為なのだった。 小さい頃からそれが当たり前で、みんなそれを疑問にも思わない。 けれど今年は孝くんと直紀くんがいるし、友達がいないから一人で行動して涙をのむ...ってことはなくなる...はず。 下駄箱につくと、 「ごめん」と大和兄ちゃん。 「ううん。」と私。 このやりとりも入学式の翌朝を迎える度に、繰り返してきた。 でも大和兄ちゃんは悪くないのだし、私も全然平気だ。 それでも大和兄ちゃんは落ち込んでいて、少しいたたまれなかった。 私はなんとかして大和兄ちゃんを元気づけるため、 「孝くんと直紀くんに会うんでしょ!」 と言って、お兄ちゃんの背中をポンと叩いた。 すると少し笑顔になって、 「そうだな」とお兄ちゃん。 はー、兄がモテすぎるのも考え物だよね…。 特にお兄ちゃんの苦労は、私が知らないだけで結構なものだと思う。 けれどこのときだけ、大和兄ちゃんがもてなければ良いのにと思ってしまう私がいて。 そんな自分に嫌気がさした。
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