【それぞれの夏】

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. 「まいどおおきに!」 「暑いのに精がでますなぁ」 「あはは、商売繁盛!繁盛! 暑い言うてられまへんわ、あはは」  僕の家は魚屋だ。  今では寂れかけた商店街の一角に所広しと陣取っていた。  数年前、近くにショッピングモールなるものが建ってから、この旭商店街はシャッターを年中下ろしている店が、大半を占めるようになった。  当然、客足もめっきり減った訳で、組合長を務める父さんは 「あかんなぁ」 が、口癖になっていた。 「サダやん! スルメイカ持っていきや! 刺身にするさかいに」  父さんは知り合いが店の前を通る度に声を掛けて、買う気もないお客さんに、勝手に売りつけるのが上手かった。 「……じゃあ、貰っとくか」 「まいどおおきに!」  これって、アコギな商売?  そんな事をいつも遠目で思っていた。  あっ、僕は17歳、高校二年で野球バカ。 .
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