【それぞれの夏】

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. 「あかんあかん、大振りや、もっと脇しめなあかんがな」  父さんも野球バカだ。  特に高校野球、所謂、甲子園が大好物だった。 「カーブ来るで、じっくり溜めて流し打ちや。 言わんこっちゃない、カーブ言うたやんけ」  兎に角、テレビの前ではうるさかった。  父さんが予測する球種通りにピッチャーが投げたりすると、得意気な顔に一層拍車が掛かる。 「ワシが監督したろうか、あはは」  と、お決まりの台詞を言う。 「母さん! ビールあらへんで」 「調子に乗りなや、三本目やで!」  と、母さんに怒られるのも、いつもの事だった。 「呑まずにおれるかいな、えぇとこやで、二、三塁、一発同点。 たまらんがな」 「あんたには関係ないがな、呆れるわ」  母さんは野球が嫌いだった。  嫌いと言うよりは、嫌いになったんだ。    あの夏の日を境に……   ……野球から目を背けた。 .
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