夏の思い出

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1 少し息を切らせながら私は山道を歩いている。 それは小さな獣道で人が一人歩けるほどの幅しかなった。 上へ上へと曲がりくねりながら登っている。 私は脇から伸びて邪魔をしてくる、青々と葉を付けた枝を手でよけながら顔を上げ木々の間に覗く空を見た。 そこには、いかにも夏らしい澄み切った青と眩しく光った白い雲、そして体を貫く様な日差しが降り注いでいた。 私は額から流れる汗を手で拭うと、軽くため息をついた。 肩に掛けた荷物のリュックの紐が食い込んでいる。 それに手を掛け少しだけ位置をずらすと、また細い山道を目的地に向け歩き出した。 二十分後、今まで頭上を覆っていた木々が無くなり、今度は空の青と夏の日差しに包まれた。 目の前には、猫の額ほどの小さな広場が広がっている。 足を踏み入れると、数歩進んで立ち止まり、視線を斜め下へと向けた。 そこには、地面が無く切り落とされたかのような崖が二十m程真下へと続いていた。 さらにその先には、海沿いにある小さな町が見える。 左側には深緑の山、右側には空と繋がっているかのような海に挟まれているその漁師町が、私の生まれ育った場所だった。 そしてこの景色を見下ろす崖上の小さな広場が、私の目的地であった。
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