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玄関の扉を勢いよく、横に引き開けながら「いってきます」と僕は言い、自分の自転車に跨った。
肩掛けのリュックの位置を少しずらしていると、背後にある開いた玄関から母が姿を現した。
「孝司、どこに行くの。夏休みだからって毎日遊んでいないで家の手伝いをしなさい」
母は叱り付ける様な口調で言った後、僕の背中にあるものに目をやり続けた。
「また絵を描くのね。別にそれは止めろとは言わないけど、あと三日後に台風がここにくるのよ。家の周りの片付けか、お父さんの漁船へ行って手伝いなさい」
「えー。また後でやるよ」というと、僕はこの場から逃げ出すように自転車を走らせた。
僕の背中へ向けて母は諦めた様に「出来るだけ早く帰ってきなさいよ」と声を掛けてきた。
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