夏の思い出

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翌日そわそわしながらあの場所へ行くと、彼女はまた海を見ながら佇んでいた。 僕は何よりも来てくれた事が嬉しかった。 彼女に声を掛けた後、僕はお気に入りの景色をバックに彼女を描き出した。 しばらくの沈黙の時間が流れ、少し飽きたのか彼女は僕に質問を始めた。 「ねえ、孝司は絵描きさんになるんだよね。親の後は継がないの?」 昨日僕の身の上話は聞かせていたのだ。 突然の質問にビックリしたが、その答えはすでに決まっている。僕はそれを伝えた。 「敷かれたレール。決められた進路か……」 彼女はそう呟くとさらに続けた。 「うん。そうだよね。自分には自分の進む道があるよね。君と出会ったように」 「そうだよ。未来は自分で決めなくちゃ」 「うん。ありがとう」 数時間後。あらかた絵を描き終えた僕はまた会う約束をしようとしたが、今度は彼女は首を横に振った。 では、何時なら?と、聞くと「わからない」とだけ返して。 「本当にありがとうさようなら」といって彼女は森の中へと消えてしまった。
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