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「なかまる…?」
暗くなった寝室、リビングから漏れる明るさに目を細めれば、扉の陰から覗きこむ小さな上田。
あぁ、夢じゃなかったんだ…。
「ん、どした」
「もうよるになって…、おれ、はらへった」
「あ、あぁ、すぐ行く」
ベッドからカラダを起こし時計へと伸ばした視線は、20時過ぎた指針を捉えて。
俺が寝てたあいだ上田はなにをしてたのかな、とか、一人にさせて悪かったな、とか小さな罪悪感が襲ってきた。
リビングへ行けばテーブルの上に紙と鉛筆が転がっていて。
ちらりと横目に流してキッチンへ向かった。
「なに食べたい?」
キッチンの入り口から機嫌を伺うように俺を見る上田に問いかけると、返ってくるのは当たり前のような返答で。
「おむらいす」
あぁ、やっぱり上田なんだなって安心する。
それと同時に言い様のない寂しさに襲われて、目の前の幼い上田をよそに、いつもの上田に会いたいと思ってしまった。
「ごちそうさまでした」
「ん、」
「これ、むこうにもってく?」
「いいよ、また割られたらたまんねーから」
「…うん、ごめん」
「早く風呂入って寝ろ、子どもは寝る時間だろ」
「こどもじゃないもん」
「そんな見た目と喋り方で否定されてもね、説得力ねーし」
「ねぇ、なかまるは…」
「あ?」
やっぱりいい、と言い残してリビングを後にした。
言いかけてやめたことにも、明らかに落ち込んでますみたいな態度も、全部、全部、全部。
イライラさせる原因にしかならなくて、むしゃくしゃした気持ちのまま上田が風呂から上がってくるのを待った。
先に寝てていいからと入れ替わりで入った風呂は、思いの外疲れを癒してくれる。
いつもだったら一緒に入る風呂、洗いっこしたあとに湯船で抱きしめるカラダ。
たった一日その温もりがなかっただけで、こんなにも消失感に苛まれるなんて。
頬に流れた水滴は風呂のお湯のせいにして、シャワーと一緒に洗い流した。
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