9月3日‐始めの一歩‐

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「大神くん、コンビニ組なんだ。購買では買わないの?」 天音が俺の昼食たちを眺め、そんな事を口にする。確かにこの学校の購買は、美味しいと評判だ。それこそ制服で学校を決めるかの様に、中学生の内に購買の味に舌鼓を打ってここに決める奴がいるくらいに。『安い』『早い』『美味しい』の購買における3ヶ条を、完璧に網羅している。 「確かにうちの購買は美味しいけど、飯食う前にあの烏合の衆に入り交じってまで、安さを求めないさ」 どの高校でもそうだとは思うが、昼時の購買部に人だかりが出来ない訳がない。ましてや今は、晩夏とも言えぬ暑さを見せる残暑が続く9月。作りたての料理にありつけるのは嬉しいが、この時期は冷やし中華でもない限りその恩恵を受ける意味も薄いだろう。 「そういう天音だって弁当組じゃないか。購買で買おうとか、思わないの?」 「私は自分で作れるもの。ちゃんと栄養とか考えてるのよ、これでも」 言いながら、いつの間にか蓋の開いている弁当箱からミニトマトと掴み、頬張る。 「トマトはビタミン類が豊富。毎日食べてると肌艶とかも違うのよ?」 そう言われても、あまりピンとこない。食事の時の栄養配分なんてあまり気にした事はない。 「ふーん。よく分からないけど、乙女は大変なのな」 深く掘ると厄介そうなので、話をはぐらかす。そして3組のサンドウィッチが入った袋を開ける。 「意外とヘルシーなのね、野菜サンドなんて」 「生憎と今朝は出遅れてな。いつものコンビニに行ったらコイツしか残ってなかったって訳さ」 俺は朝、住宅街にそびえ立つマンションから登校してくる。住宅街を抜けた先にある大通り沿いのコンビニの朝は、通勤通学者が賑わいを見せている。
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