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「引っ越し……?」
俺はその言葉を聞いた瞬間、訳が分からなくなった。長年連れ添った幼馴染みと、その縁を別つ。すなわち「友」を失うということ。
「そう。この家を出るのが、今月の末。」
時間も、そう長く残されている訳ではない。
「お父さん、昔は転勤族だったの。小学校に通い始めた頃から転勤はなくなったんだけどね。今回はホントに突然だったの……」
不意に語りだした翼の言葉に、耳を傾けるしかなかった。
「前にね、1つだけ嫌な事があったんだ。小学一年生の頃、随分仲良くなった友達がいたの。その時も、今みたいに秋口にお父さんの転勤が決まったんだ。その子との最後の思い出が、花火大会だった。でも……そこまで覚えてるのに、その子の名前も顔も、思い出せないの……」
確かに僕が翼と最初にあったのが、小学一年生の秋だった。今考えると、中途半端な時期だったと思う。
でも、転校直前にそんな事があったなんて……。
「だからね」
一度大きく息を吸ってから、翼が言葉を紡いだ。
「これからは、もう私には関わらないで。もう、友達なんて呼ばないで……!」
その言葉を聞いて、自分の耳を疑った。翼の言っている事は、決別だ。時を迎えずに、その袂(たもと)を分かつということ。
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