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「お前、何言って――」
「分かって、謙太。私はもう、アンタや咲の顔を忘れたり、名前を思い出せなくなったりイヤなの……!」
翼の言う『咲』とは、同じクラスの天音咲の事だろう。そうか、彼女と翼は仲が良いのか。だけど今は、それよりも。
「忘れてしまうくらいなら、いっそここで縁を切った方がいいのよ!」
プツン、と。自分の仲で何かが切れた音がした。
「……翼」
「……何よ」
「転校するの、今月の末って言ったよな?」
「えぇ、そうよ」
今日が9月2日で……。30日に翼はこの地、陸海(むつみ)を出ていく。何とかなるか……。
「分かった」
「謙太……ありが――」
「だけど!」
翼の声を遮って、声を大にする。少しだけ、翼の肩がビクついた気がした。
「今日のところはもう何も言わない。だけど……お前が転校するまでに、絶対にお前に『友達だ』って言わせてやる!」
翼が縁を切るって言うなら、俺は意地でも繋ぎ止めてやる。翼と俺の腐れ縁が、転校なんかで切れてたまるか!
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