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「今月の29日って、上名(かみな)川で花火大会があるでしょ?そこに、翼ちゃんを連れて行きましょう」
彼女の言う花火大会とは、駅で言うと陸海から5つほど先の篤井(あつい)市を流れる上名川の河川敷で行われる、花火大会だ。毎年7000発もの花火を打ち上げる、この地域でも有数の祭事だ。
「なるほどな。でも何だって月末ギリギリのそのタイミングなんだ?ちょっと直前過ぎる気もするんだけど……」
今日が9月3日。29日までは、3週間以上ある。その間、何もアクションを起こさないつもりなのだろうか。
「何も、それまで何もしない訳じゃないわ。その日までに、細々した行動は仕掛けていくつもりよ」
「具体的には、どんな?」
俺はそれが全く浮かばなくて、天音に声を掛けたのだ。翼とプライベートで色々と遊んでいた彼女なら、趣味趣向も知っているだろうと踏んだのだ。俺も昔は遊んだが、最近では登下校で一緒になったりするくらいだった。
「翼ちゃんって、そんなに遊び回るタイプじゃないのよね。だから悩むのよ、私も」
まさかの黄色信号だ。全く手だてが無い赤色ではないようだが、いまいち定まらないらしい。
「そうだ。お昼、食べようよ。せっかく持ってきてるんだしさ」
彼女は思い出したように口を開く。その言葉を聞いて、俺もテーブルの上に置かれたコンビニのビニール袋に目を遣る。
「そうだな。せっかく買ってきて昼休みが終わったんじゃ、話にならないしな」
そう言うと天音は苦笑しながら頷き、ランチバッグを開く。その中からは赤く慎ましやかな、女の子らしい弁当箱が出てくる。俺も呼応する様に、袋からサンドイッチとお茶を取り出す。
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