プロローグ

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その姿を見上げながら男は木陰の下に入り、立木の太い幹に背を預けて瞼を閉じた。 木漏れ日の心地よさに彼がうとうとしていると、その頭の上に何かが落ちてくる。 軽い衝撃に瞼を開くと、赤い木の実が一つ、彼の目の前に転がっていた。 「おいしいよ!食べなよ!」 「いただくお」 頭上から響いた女の明るい声に応えて拾い上げた実を口に含めば、シャキっとした歯ごたえとともに、甘くみずみずしい果汁が男の口の中に広がった。 それは千と数十年前に食べたリンゴという果物の味と良く似ていて、それから懐かしいことを思い出したらしい彼は、年甲斐もなく口元を緩めた。
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