プロローグ

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 高校一年になってから、蝉の鳴き声がうるさくなり、暑い季節を感じさせる七月を迎えるそんな時、俺はとんでもない窮地に陥っていた。  もう直ぐ七月という事は、夏休みも目の前であるって事だ。しかし、俺には夏期休暇を満喫出来る為の金が微塵もない。  そんな訳で、俺は至る所にバイトの面接に行ったのだが、こんな不況な世の中だ。雇ってくれるところなんてあるはずもなく、全て滑り落ちてしまった。 「ケント、まだバイトが見付からないのか?」 「エイヤ……」  物心が付く前からの幼なじみ、陰野影夜(かげのえいや)が相変わらずクールな表情で俺に歩み寄って来る。  肩まである長い黒髪ストレートで、前髪も目が隠れる程ある。クールな性格なとこもあり、そんな容姿から根暗に見られがちだが、素顔は整った顔立ちであり、かなりの美男子である。  おまけに、彼は五〇〇年前に魔王を打ち倒した勇者の血を引いており、幼い頃から父親に戦術を叩き込まれていたので人間の中でもかなりレベルが高い。 「まぁ、君のような男じゃ誰も雇わないよ」  おまけにかなり口が悪く、例え幼なじみだろうと平気で罵声を浴びせる腹黒い性格も兼ね備えている。 「だーまーれ。そうだ、エイヤ君……」 「金は貸さないよ。それより、貸した金はいつ返してくれるのかな?」 「は……働いて返す!」 「耳に胼胝(たこ)が出来る」 「もう少し待って……くっ!?」  い……イカン! 今朝飲んだ賞味期限切れの牛乳が腹に……後数分でホームルームが始まると言うのに! 「おい、どこに行く?」 「トイレ……」 「そんな事より、昨日の深夜番組見た?」 「見た見た! あのエロシーンがぁぁぁぁっ!?」  この野郎、話を逸らしてトイレに行かせないつもりか!? 何て冷徹な男だ! 幼なじみが社会的に死ぬか生きるかの瀬戸際に立たされてるのに、抹殺するつもりか!? 「あっははは! それでそのシーンなんだけど──」 「じゃあの!」 「チッ!」  今、後ろで舌打ちが聞こえたような気がしたが、幻聴という事にしておこう。波が静まってる間に早くしないと、大津波が来たら終わりだ!  切羽詰まった状況の中、俺が教室の扉を開けた瞬間、とんでもない美少女が目に映る。  澄んだような淡い水色の髪をツインテールにし、真珠のような白い肌。人形のような大きな赤い瞳に長い睫。image=458977473.jpg
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