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時折、身を削ってしまい、凪の顔は痛みで歪んだ。
だが、そこで止めるわけにはいかないので負けずに続けた。
日はいつしか落ち、窓からほんのり月明かりが差す以外は闇に包まれている。
春が近付いているとはいえ、暖房のない部屋は冷蔵庫の中よりも寒く、凪の吐く息も白い。
だが、彼女の額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
(……後、少し)
根気よく続けた結果、ロープはだいぶ擦り切れて来たが、女の力で切ることはまだ不可能だ。
もう少し頑張ろうとした時、懐中電灯らしき明るい光が扉から差し込んだ。
逆光で顔が見えない。
だが、凪の表情は険しくなった。
シルエットで判断つく。助けではない。
影達は案の定、凪の行為に目を止めた一人が、次の瞬間彼女の右頬を平手で打った。
咄嗟に頬を反らすことで、威力は半減できたが、口の中を切り、鉄の味が口の中に広がった。
凪はそれでも脅える事なく、相手を睨み付けた。
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