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◇◇◇◇◇◇
--それは、今から十年前の話だ。
当時十三歳の僕は、いつもと変わらない生活を送っていた。家族や友人と過ごす日々を、その頃はまだ退屈だと思っていたりもした。
けれど、その日常はある日突然幻想になってしまった。
村中になだれ込んでくる、狼に似た魔物の群れ。その牙に、爪に、よく見知った人たちが次々と切り裂かれていく。
そして、父さんと母さんがその魔物たちの餌食になった。それも、僕の目の前で……。
--悪夢だ……。
僕は心の底からそう思った。
頭の中は真っ白になり、肉塊になった父さんと母さんを見つめたまま、ただ茫然と立ち竦むしかなかった。
視界に魔物の姿が映り込む。
だけど、僕は動けなかった。完全に思考が停止した頭では、自分に危機が迫っていることすらりかいできなかった。
魔物が跳躍し、襲いかかってくる。
僕は避けようともせず、ただそれを眺めていた。
--その瞬間、弧を描く銀色の光が、魔物の身体をを斬り払った。
「少年、ケガは無いか?」
その声で、僕はようやく我に返った。声のしたほうを見ると、そこには威厳ある白い鎧を身に着けた騎士様がいた。
手に持つ槍の穂先には、真新しい鮮血が付着している。それを見て、僕はこの騎士様に助けられたことを理解した。
「さぁ、早くここから逃げるんだ。向こうに村人を保護している部隊がいる」
そう言われ、僕の凍りついていた思考は再び動き出した。そして、騎士様が指差した方向へ、全力で走り出す。
魔物たちの悲鳴を背中越しに聞きながら、僕は心に思った。
--あの騎士様のようになって、大切な人たちを守りたい。
そして今、僕、アレックス・ルーヴァンは、帝国騎士として帝都の守護任務に就いている。
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