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◇◇◇◇◇
--あれは……もう十年前になるか。
十三になったばかりの俺は、いつもと変わらない暮らしをしてた。田舎だから。目新しい物なんてそう入ってこなかったけど、仲間たちと遊び、大人たちの狩りの手伝いをするこの生活が、俺には十分楽しいものだった。
--だが、それはいきなりぶっ壊れた。
村中で暴れまわる山賊たち。家々に火の手が上がり、はむかう人間たちは女子供だろうと容赦なく殺されていく。
奴らの手にかかり、俺が想いを寄せていた娘(こ)も殺された。俺の目の前で……。
--悪い夢だ……。
俺は心底そう思った。
こういう時は、すぐさま騎士が駆けつけ、山賊を討伐してくれるはずなんだが、そんな気配ぜんぜん見えない。
胸がざわつき、身体中が熱くなる。頭の中は、怒りの感情でいっぱいになった。
俺は狩りで愛用している小振りの刀を握り締め、山賊に応戦している大人たちに加勢した。
振り下ろされる剣を刀で受け止め、弾き返す。そのまま刀の柄頭を相手のみぞおちに叩き込む。
それに激昂した相手が、渾身の力で剣を突き出してきた。
--その瞬間、俺は身体の位置を入れ替えて背後を取り、躊躇無く相手の背中を斬りつけた。
「バ、バカな! お頭がやられた!」
山賊の一人が驚愕の声を上げる。どうやら俺が殺ったのがこいつらの頭目だったらしい。
一人がうろたえると、それはすぐに山賊たちの間に伝染した。それが隙になり、大人たちが反撃を始める。もちろん俺も、それに加わった。
「や、やべぇ! おいお前ら! ズラかるぜ!」
こっちの勢いに押された山賊たちが、ほうほうの体で逃げ帰っていく。そこで俺は、この戦いに勝ったことを理解した。
けど、あの娘(こ)はもう還ってこない。怒りが治まったあと、俺はどうしようもない悲しみに包まれた。
とめどなく溢れる涙を拭いながら、俺は心に誓った。
--俺が騎士になって、もう誰にもこんな想いをさせない!
そして今、俺、グレイ・ラッシュは帝国騎士になって、領内の町や村を回っている。
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