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今。
そう今だ。
目の前で私の恩師が終わりをむかえていた。
私の恩師の名は[前田慶次]かつては天下一の傾奇者の言われたいくさ人だった。
しかし、今は病に伏せ、その灯は消えかけていた。
私は彼から傾きの極意を教わった。最初の頃、前田慶次は傾くのを生涯やめていた。
私は無理を承知に毎日毎日頼み込んでいた。数年前の冬だった、私は今日もダメだろうと思いつつ、前田慶次がいる小さな屋敷に足を運んだ。
すると、どういう訳か屋敷に入れてもらい、酌までもしてもらった。
「我、生涯の師を見つけたり」
そして私は傾きのなんたるかを彼から教えていただいた。
そして今日、以前から煩わしていた病に倒れた。
医師は慶次の手首を触り、首を振った。
前田慶次の友たちは泣き崩きた。しかし、私は泣かなかった。
それが私が彼にした初めてであり、最後の傾きであった。
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