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次の日の朝。
彼は早朝から外に飛び出していた。
深紅の鞘の太刀と脇差し、髑髏の紋所に虎皮の裃は今の時代では無礼にも程がある。しかし、彼の傾奇衣装としてはまだまだ甘い方である。
金の大煙管を彼が取り出したとき、背後から声がした。
「氷村殿! 待ってください!」
どこぞの大名の小性をやっていそうな武士が馬の手綱片手に彼を止めた。
「どうした?」
「傾き修行にいくとは真でございますか?」
「ああ。慶次殿に誓ったんだ! 天下一の傾奇者になるとな。」
煙管の煙をはきながら彼、氷村は熱意こめていった。その意志は固く、小さな小性では止めることは出来ないだろう。
それを悟ったのか小性はなにも言わずに馬の手綱を彼に渡した。別れが惜しいのか、手はすこし震えていた。
「この馬は前田慶次さまの愛馬である松風の子でございます。」
小性の背後に覇気をまといし巨馬が氷村を見つめた。なんとも凛々しくあり、力強いその馬に氷村は一目で惚れた。
「なんてでかい馬だ。腹の底からほれた!」
氷村は馬にまたがり小性に礼をいうと走り去った。
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