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「ってか、さ。付け込んでんのは俺だよ?」
「うん。」
「謝んのは違うでしょ。」
「そうだね。」
ずっと眺めていた背中が遠くなって見えなくなった。
右に顔を向ける。
「ありがと。」
春樹はこっちを向いて唇だけで笑った。
「あーあ。煩わしいね。」
「そう?」
「うん。ちょっと疲れた。」
「何年もこうしてきたのにな……」
こんなときに限って感傷的。
「慰めようか?」
いたずらに笑う口元とは逆に目は愁いを帯びるから私まで辛くなる。
「傷つくのはあんただって分かってるでしょ?」
「いいよ。傷つけて。」
それなのに強さを持つから流されたくなる。
「だめ。私が許せない。」
「違う。俺……ずるいから。」
そう言って目を伏せる。
睫毛でできた影があまりに痛々しいから、言葉を紡ごうとする彼を遮った。
「大丈夫。知ってる。」
「……それにずるさなら私の方が上でしょ?」
私たちは笑った。
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