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「最近は物騒だなぁ」
「物騒ですね」
でっぷりと太った男が、デスクに踏ん反り返って新聞を読んでいる。
「深夜に散歩中の母子を通り魔が惨殺…、か。世も末だな」
「世も末ですね」
ひょろっとした部下らしき男が、デスクの前に立って相槌をうつ。
「…しかも殺害した理由が『なんとなく』だそうだ。なんとなくで殺されてちゃたまらんな」
「たまりませんね」
ガサガサと、太った上司は新聞を畳んでそこら辺に投げる。
部下は、さりげなくそれを綺麗に整えてデスクに置き直す。
「そういえば先日、君のところも赤ん坊が産まれたらしいじゃないか?」
「産まれましたね」
「パパになった感想はどうだ?」
「パパになった、という感じですね」
「ウチは子宝に恵まれなかったからわからんが…、実際、自分の子供は目に入れても痛くないほど可愛いだろう?」
「はい。痛くなかったですね」
「可愛い子供と嫁さんを同時に殺されたこの旦那も気の毒だなぁ…」
「気の毒ですね」
「もし君が、被害者の旦那だったらどうするね?」
「相手を、殺しますね」
「それは無理だよ。相手はすでに監獄だ」
「そうですね。ならば…」
しばしの逡巡ののち、部下はこう答えた。
「相手にも、自分と同じ思いをさせてやりますね」
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