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俺はゆっくりと、通りを渡る。
彼女を殺すための凶器は、少し離れた歩道の茂みの中に隠してあった。
刃渡りの広い出刃包丁。
ズシリとした重さが、俺に安心感を与える。
わざわざ凶器をそんな場所に隠したのは、彼女の家を見張っている間に、万が一、警察などに職務質問などされては困るからだ。
言い訳する前に、まずは交番に連れて行かれてしまうだろう。
俺はピザ屋を装った黄色いキャップを目深に被り、包丁をしっかり握りしめる。
今から、彼女を殺す。
本来ならば、あの男をこの手で殺してやりたい。
だが、相手はすでに刑務所だ。
罪状から考えれば、もう一生出て来れないかもしれない。
だとすれば―…。
夜の蒸し暑さで、頬を一筋の汗が伝う。
だとすれば、奴の妻を殺し、俺と同じ苦しみを味わわせてやるしかない。
そうしなければ、
そうでもしなければ、
俺は、天国にいる妻と子供に会わせる顔が無い。
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