―壱―

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その姿にキュンっとする。 が、顔がにやけそうなのを堪えて 竜「いつも一緒に寝てへんやろ!和歌山や。寂しくても浮気すんなよー。」 いつきの頭を竜也の大きな手でよしよしと撫でてやる。 い「なんや、隣やん。ぶりっこして損した。」 急に素っ気ない態度をみて竜也は自分が寂しく思えた。 ウチと竜也は、かれこれ付き合って1年がたつ。 同じ大阪で生まれ、育ち、職場もお互い大阪なのだが、仕事上いつきはバラバラな出勤に対して竜也は営業マンの規則正しい勤務。 スレ違いはあるがなんやかんやと修羅場はない。 ウチは何事にも熱しやすく、冷めやすい。 竜也に関しても珍しいことだ。 幼い頃から習い事も数多くしてきて水泳、日本舞踊、英会話、絵描きなど。 だけど結局何も続かない。 家は裕福だったが決して幸せと感じたことはない。 父はほとんど家におらず、本当は愛人でもいてるんじゃないかと思う。 愛情なんてものはない。 そんな父を父親とは思えなくてそんな関係を物心がついた頃から続いたのだから今さらどうかしたいとも思わない。 そして母は専業主婦。 習い事をし、主婦たちのランチを毎日楽しんでいたように見えていたが、実際父がいない寂しさを紛らわしての行動だったらしく、限界がきた時に鬱憤がウチへと向けられ虐待が始まった。 酒に溺れウチをみれば “アンタの顔を見たらあの男の顔を思い出す。出ていけ!”など暴言は毎日繰り返された。 “この家にはいてはいけない。” 幼いながらも自分の身の危険を感じ、必死に勉強をして医者になり自立しようと決めていた。 この時代15歳で成人扱いになるため、一人暮らしも簡単にできたのだ。
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