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チュンチュン、と朝の訪れを知らせる小鳥の囀ずりが学生寮に響く。
薄いカーテン越しに差し込む光がウェンの顔へと当たり、瞼の裏から微かな光を感じた彼は眩しさを避けてうつ伏せになって顔を布団に押し付けた。
「…………ん……」
声にもならない呻きにも似た言葉を発してウェンの意識は不完全ながらも覚醒する。
そして今の環境を思い出したウェンは頭に手を当て、寝る前に狼の耳を隠すために巻いていた黒いタオルが外れてないことに安堵した。
両手をベッドに押し当てて体を起こす。
クーラーが程よく効いていて実に快適な状況だった。
開ききってない寝ぼけ眼で隣のベッドを見れば、そこには枕を抱いて顔を埋め、バンダナを巻いたまま穏やかな寝息をたてる女性が一人。
ルームメイトのキリア・ジョーカーである。
「……ふぁ……あ…………。……あぁ……そうだ……学園だから依頼受けなくてよかったんだった……」
ユルく履いたスウェットの上から尻を掻きながら着替えるために寝室からリビングへ。
寝間着として使用している上下共にラフな服装から制服に着替えるためにまずダボッとしたスウェットシャツを脱ぎ捨て、黄色の明るいTシャツを着込んでブラウスのボタンを閉じる。
それをネクタイで適度に締めた後に黒いズボンを履き、黒と白の簡素なデザインのベルトを通してから、最後に藍色のブレザーに袖を通した。
「朝飯食うか……」
人生初の学園制服に袖を通したウェンは内心まだここまでガッツリ着なくても良かったな、などと考えつつキリアの眠る寝室へと向かう
「オイ起きろー」
軽く声をかけながら彼女の肩を軽く叩けば、軽い衝撃を受けて眠りから覚めたキリアが目を擦りながら起き上がる。
「……んー……おー……おはよう……。お前早起きだな……」
「お前が遅いんだよ。遅刻すんぞ。とっとと起きろ」
「おう……、……今何時?」
「ん?いやオレも時間はまだ見てねぇ。時計どこだっ……け………………」
そんな何気無いキリアの問いかけにウェンは質問に答えながら時計を探して周囲を見渡す。
その捜索途中で時計を見つけた彼だったが、その視界に飛び込んできた時針と分針の指す時刻を認識した瞬間彼の全身から汗が吹き出し、眠気が消し飛んだ。
現在の時刻。
【8:42】
「「遅刻じゃねぇかァァァァ!!!」」
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