願い事

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「ふうーっ……」  俺は公園の駐車場で缶コーヒーを片手に煙草をつけた。 《台風12号は5日間にわたり大雨を降らせ、記録的な降雨量をもたらしました。これによる被害は……》  カーラジオは各地の、台風による被害の詳細を告げている。  これは悪い夢だ。仲間の車は、でかい落石にはじき飛ばされ、放物線を描いて谷底へ消えて行った。  俺は止めたんだ。強行突破はやめようと。それなのに彼は……リーダーの澤田は聞かなかった。山道だから大丈夫と言い切った。  彼はボランティアの現場では確かにエネルギッシュに働いた。その活躍ぶりは際立っていた。だが、彼は安全に配慮する能力を欠いていた。結局は、同乗した仲間を道連れに濁流に呑まれてしまった。そうして臆病者の自分だけが助かった……  ……と言う事にしておこう。  澤田は夏美をものにした。いや、夏美も澤田の強引さをリーダーシップと勘違いしていたようだ。だが、夏美は最初は俺と親密になった。東京に帰っても連絡を取り合おうと言いだしたのは彼女の方からだった筈だ。それが澤田から誘われるや、コロッと態度を変えた。夏美は俺を幻惑しておいて澤田に幻惑されたんだ。ふんっ! こっちは、いい面の皮だ。  あれはっ?  夜空に流れ星が走った。  ひとつ、ふたつ、みっつ……  そうだ。念の為に願い事だ。  どうか、奴の車のブレーキに細工をした事がバレませんように。 ―了―
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